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dimanche 2 novembre 2008

Et t'as fait quelle itude?

ことの起こりは去年の初めであります。
 2007年1月に中国を訪問した、社会党の大統領候補だったセゴレーヌ・ロワイヤルは、「万里の長城に来たことがないものは勇敢ではない」という中国のことわざを聞いて、「私は中国に勇敢性(bravitude)を探しにきたのです」と云いました。この「勇敢性」という奇妙な新語は多くのひとに嘲笑されました。これのせいでサルコジに負けたのではないかとも云われています。(「勇敢」と訳されたところは、中国語では「好漢」、つまり「好色漢」、もとい「いい中国人」ということばなのだそうです。)
 これについてはさまざまな反応がありました。インターネット上のペイジで見つけたものでは、フランス語教師国際連盟による雑誌にもとづいた、Le français dans le monde というブログの記事(2007年3-4月)が、もっとも語学的におもしろいものです。セゴレーヌはこの新語によって無知を示したというよりは、このことばを云ったときのほほえみを考えると、意図的につくったのだろうとこのブログは推測しています。この新語にあたるだろう、フランス語にもともと存在した単語には bravoure がありますが、もしかしたらこの単語のマッチョな感じを嫌ったのではないかと云われています。
 セゴレーヌはこの新語を「形容詞+ -itude」という規則に従ってつくっているけれども、これを真似して続々と生まれた新語は必ずしもこの規則に従っていないために、他のひとはセゴレーヌほどに言語感覚が発達していないということを示している、とこの記事は云っています。フランス語では、-itude という語尾で終わる単語の数は少なく、多くはラテン語から導入されたものだそうです。このブログは、aptitude (aptitudo)(適性)、certitude (certitudo)(確信)、plénitude (plenitudo)(充溢)、habitude (habitudo)(習慣)、solitude (solitudo)(孤独)という単語のリストを挙げています。
 他方で、セゴレーヌの真似をしてつくられた新語としては、correzitude, maladressitude, fiscalitude, gravitude, Druckeritude などが挙げられています。Maladressitude, fiscalitude, gravitude に関しては、それぞれ maladresse, fiscalité, gravité があれば用が足りるところをおもしろがって新語をつくった、というものです。Gravitude だけは聞いたことがあります。Corrèze はジャック・シラクや社会党書記長のフランソワ・オランドの出身県、Drucker は日本人が大好きな経営学者じゃなくて、ミシェル・ドリュケールというテレビの司会者のことです。
 Chambre avec vue というブログの記事(2007年1月)では、セゴレーヌはただ bravoure を云いまちがっただけだろうという意見ですが、ここで挙げられている -itude で終わる単語のリストはもう少し長いです。Finitude, attitude, promptitude, amplitude, exactitude, plénitude, turpitude, béatitude, gratitude, habitude, altitude, décrépitude, vicissitude, incertitude, inquiétude, lassitude, rectitude, magnitude... コメントは servitude をリストにくわえています。
 社会党の議員さんのミシェル・ドローネーのブログの記事(2008年4月)では、セゴレーヌの bravitude という新語を絶賛しています。モデルをエメ・セゼールの négritude にとり、自分でも féminitude という新語を発明しています。
 さて今回この記事を書いた動機はこれであります。

 このミカエル・ヴァンデッタという青年が、「俺はいい男だ」ということでフランスのインターネット上で話題になっております。いわゆるバズ(buzz)というやつですね。もっとも日本で「バズ」ということばがどのくらいいわゆっているのかはよくわかりませんが。この青年は「俺はいい男だ、(よって)ビッグだ」とインターネット上で云っているということ以外何もないのだが、その不遜な態度がばかにされてもまったくそれを意に介さないということでやっているわけです。同時にゲストで出ているちょっと太めの黒い服を着た女の子はシンディ・サンダース(サンデルス)と云って、これが去年の「ヌーヴェル・スター」というオーディション番組で、「大して歌がうまくないのに自分は天才歌手だとどうやら本気で思い込んでいるらしい」というのがばかにされて有名になりました。ミカエルくんは男版シンディ・サンダースと呼ばれているのだが、歌も歌っていないというのが少しちがいます。ミカエルくんの隣りの隣りにいるアメル・ベントという女の子も「ヌーヴェル・スター」出身ですが、彼女はミカエルくんに「あなたは何もしてないじゃない」ということを云っています。(ちなみにアメル・ベントとミカエルくんの間にいるのはインドネシア出身(現在はフランスに帰化しています)のアングーンという歌手で、新作は世界のサカモトがプロデュースしています。)
 さてミカエルくんが標榜するのが、bogossitude です。今の日本で云うといけめんというのでしょうか、美青年のことを beau gosse と云います。むしろ若者ことばとしては bogoss とつづった方がいいでしょう。私もフランスでよくこう呼ばれました。この bogossitude は「いけめんアチチュード」という感じでしょうか。
 その一方で、ミカエルくんが司会のコエを批判して云うのが、beaufitude ということばです。これは beauf ということばから来ています。Beauf は beau-frère すなわち「義理の兄」の略語です。日本語でこれに相当する単語はありませんが、強いて云えば「おやじ」とニュアンスが似ていると云えるでしょうか。自分の奥さんや恋人のお兄さんは、保守的で、品がなくて、社会問題に対する定見がなくて、サッカーと野球のファンで、ビールばかり飲んで、ヌード写真を見て、競馬なんかやります。ミカエルくんはこのコエのことをこういう beaufitude 日本風に云ってみれば「おやじ性」の代表と呼びます。もっとも beauf は必ずしも「おやじ」ではありません。この番組は確かに beaufitude を代表するものですから、ミカエルくんはまちがっていないと云えます。でも前に聞いたことがありそうな気がする beaufitude は、ミカエルくんがつくった単語ではないでしょう。ちなみに、この番組の題名 Méthode Cauet もまたフランス人の好きなことば遊びで、méthode Coué 「クエ式自己暗示法」をもじっています。
 ジャック・シラクが abracadabrantesque 「わけがわからない」ということばを使ったときにも、人々は辞書に載っていない自分でつくったことばを使うシラクのことをあざ笑いましたが、実はこの単語はアルチュール・ランボーが使っていたことがわかってみんな恐縮してしまいました。それに対してセゴレーヌ・ロワイヤルの bravitude はまちがいなく彼女自身の造語でしたが、シラクの abracadabrantesque とはちがって、次々と -itude で終わる造語を生むという予期せぬ事態を生んでいます。

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