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samedi 26 juillet 2008

生まれる人々

 共通の語源をもったフランス語の単語を集めてみると、ぼんやりとだけれども、フランス語の発想がわかって面白く感じられます。今回は *gen(e)-, gne- 「生み出す」「生まれる」という印欧語の語根をもった単語を、網羅的にではないけれども、列挙してみましょう。
 1. まずは gen- という語根をもつもの。ルネサンス以前からフランス語のなかで用いられていたラテン語起源の「民衆語」あるいは「半民衆語」から。
 いちばん代表的な単語は gens (人々)。「憲兵さん」の gendarme は gens d'armes から来ています。「武器をもった人々」ですが、もとは「騎兵さん」のことを意味していました。
 「婿」は gendre。「やさしい」は gentil ですが、もとは「高貴な生まれ」です。この単語は「異教徒」も意味することがありますが、起源がちがい、こちらは学者語です(聖書の翻訳から来ているはず)。「生み出す」は engendrer。面白いものでは、néant 「無」が ne gentem 「生きているものではない」から来ています。語源学においてもみんなが意見が一致するということはなく、これは nec entem 「存在しない」から来ていると考える向きもあるようです。それでも後者はラテン語の哲学用語であったことから、ルネサンス以前にこれが民衆に用いられることはありえないのではないかと考えられているようです。
 ルネサンス以後に現れる学者語も数が多いです。「無邪気」を意味する ingénu はもともと「自由なひと」を意味していました。「精」「天賦の才能」は génie。これの形容詞が génial で「すばらしい」というような意味でよく用いられます。「現地人」は indigène。何が悲しゅうてフランス映画の題名を英米の映画配給会社が決めたにちがいない英語の題名のカタカナ表記にしなければならないのか、意味も理由もわからないが、『現地人』 Les Indigènes という映画の「日本題」は『デイズ・オブ・グローリー』になっています。フランスの植民地であったアルジェリア人がフランスのために闘う、という題名に込められた意味が完全に無視されておりますなあ。しかもこの映画の監督はラシッド・ブシャレブ(Rachid Bouchareb)というひとなのに、なぜかカタカナはブシャールと何だか「フランス風」に変えられています。何か理由があるんですか。
 「世代」は génération。「再生させる」régénérer。「退化する」dégénérer。「一般的」général。「寛大」généreux。
 「親」géniteur。「生殖に関する」génital。
 2. 別の語根 gna- から生じた単語。民衆語、半民衆語から。
 「生まれる」が naître とその系列語、「誕生」naissance、「再生」renaissance。ひとの名前の「ルネ」René も同根です。「年上」aîné、「年下」puîné。「生れつき」inné、「素朴」naïf。フランス語でこの単語 naïf (女性形は naïve)は日本でいう「ナイーヴ」の意味とはかなりちがっていて、「ばか(何もわかっていないひと)」の意味でもつかわれるので注意しましょう。日本で「素朴」「純情」の意味ではなく「デリケイト」の意味で「ナイーヴ」を使うひとがいるのはいったい何なのか私にはよくわからない。英語ではそういう意味で使うんですか? たとえそうだとしても「デリケイトな問題」のことを「ナイーヴな問題」と云いたい理由がわからない。「クリスマス」は Noël。
 学者語。「自然」は nature。ここから派生した単語はたくさんありますが、省略。「国家」は nation。これも派生語を省略。
 3. ギリシア語起源の学者語では、généalogie 「系譜」。「遺伝学」は génétique。「遺伝子」は gène。「よい」を意味する接頭辞 eu- をつけた形から生じた eugénisme は悪名高き「優生学」。当然 genèse 「創世」もギリシア語起源。ギリシア語起源の学者語には、いかにも「学者語」というものが多く見られます。
 日本語での「和語」「漢語」「外来語」をつかいわける発想と、フランス語の「民衆語」「学者語」のちがいを比べてみると面白いのではないでしょうか。

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